★ 【Love is Beautiful Energy!】Nevermore,Evermore ★
クリエイター犬井ハク(wrht8172)
管理番号102-6688 オファー日2009-02-15(日) 18:37
オファーPC 片山 瑠意(cfzb9537) ムービーファン 男 26歳 歌手/俳優
ゲストPC1 刀冴(cscd9567) ムービースター 男 35歳 将軍、剣士
ゲストPC2 十狼(cemp1875) ムービースター 男 30歳 刀冴の守役、戦闘狂
<ノベル>

 二月十四日。
 いつも通りの、薫風に満ちた杵間山の一角で。

 とてもよく晴れた午後だった。
「刀冴(とうご)さん十狼(じゅうろう)さん、こんにちはー」
 片山瑠意(かたやま・るい)は小綺麗な紙袋を手に、いつものように杵間山中腹の古民家を訪れていた。
「刀冴さん休憩中ですか……って、あ、やっぱり」
 玄関の方から声がしないので、特に断るでもなく――この家は、訪問者が誰であれ、好きなように入り込んだところで咎められることはないのだ、悪意さえなければ――中庭に回り込むと、古民家の主人であり、天人の片割れでもある馴染みの青狼将軍は、普段通りの青い衣装に身を包み、縁側で銀の煙管を吹かしていた。
「おう、いらっしゃい」
 人間ではない種族の血を引くがゆえに、瑠意が古民家に辿り着く前から彼の存在に気づいていたであろう刀冴は、左半面を流麗な刺青に彩られた面をほころばせ、軽く手を挙げてみせた。
「あれ、一服中なんですね、珍しい」
「ん、ああ……そうか?」
「こっちの世界には気に入った葉がなかなかないから吸わない、って前言ってませんでした?」
「ああ、確かにそりゃ言った覚えがあるな。……十狼が、俺の気に入りの葉を、畑の隅で栽培してたみてぇでな。その精製が済んだから、まぁ……味見ってヤツだ」
「なるほど、でも……煙草まで栽培しちゃうとか、十狼さんてどんだけ刀冴さんのことが好きなんでしょうね」
「ホントにな。……まぁ、これに関しちゃ、俺も結構嬉しかったんだが」
 瑠意の、呆れと羨望の含まれた言葉に肩をすくめ、刀冴がまた吸い口に口をつける。
 雄々しく猛々しくありながら優美でもある刀冴の姿かたちに、それは驚くほど似合い、様になっていて、瑠意は、『星翔国綺譚』の青狼将軍が、特に大事のない静かな日に、ひとり、穏やかに煙をくゆらせているシーンを思い出して、少し笑った。
 映画の中にいたころから憧れていた人物と、まさかこうやって、実際に言葉を交わす日が来ようなどと、一体誰が想像出来ただろうか。
「あれ、そういえば、恵森ちゃんは?」
 つい数ヶ月前、刀冴の弟分である漆黒の傭兵によって救われ、ここで飼われることになった――と、いうよりは、マンション住まいの彼のために、仔犬を養育する場所を提供していると言うべきか――柴の仔犬の姿を探して瑠意が視線を巡らせると、刀冴は、薫香をくゆらせる煙管の先で山の奥を指し示す。
「あいつと散歩に行ってる」
「ああ、なるほど。今日もだらしない笑顔だったかな?」
「当然だろ」
 その断言がおかしくて、瑠意が肩を揺らして笑っていると、
「おいでになったか、瑠意殿。――ゆるりとして行かれよ」
 黒塗りの盆に、湯呑み茶碗をふたつ載せた十狼が姿を見せ、瑠意はパッと笑顔になった。
 半径一キロメートル内の生命の動きを感じ取れるという、規格外の感覚を持つ十狼が瑠意の訪れに気づかないはずもなく、湯呑み茶碗は、刀冴がいつも使っているものと、瑠意が持ち込んだもののふたつだ。
「今日は、お邪魔してます、十狼さん。今日はふたりに渡したいものがあって来たんですよ」
 言いつつ、縁側に腰を下ろし、紙袋を置くと、古民家では見慣れた甚平姿の十狼の、白く美しく力強い手が、己の傍らに湯呑み茶碗を置いてくれる。
 それだけで卒倒しそうなくらい幸せな気分になって、瑠意は、ああ自分は末期だ、としみじみ思った。
 ちゃんと自覚があるのが、なおさらたちが悪い。
 いつの間にここまで、と思いはするが、今更だろうと呆れる声があるのもまた事実だ。
 瑠意のそんな胸中など知らぬげに、マイペースな天人主従は小首を傾げている。
「渡したいもの? 何かあったか?」
「さて。以前、瑠意殿が惣菜を持ち帰られた際、お貸しした皿くらいのものでは?」
「ああ、大根の煮物と柚子のタルトを入れた奴か」
「あ、すみませんそのお皿は忘れました。また今度持ってきます」
 ものに対する執着のない天人たちが、生活密着型極まりない台詞を口にするのへ笑い、瑠意は、紙袋から綺麗にラッピングされた小さな箱をふたつ、取り出して、刀冴と十狼の前に置いた。
 やはり、まったく心当たりがないらしく、天人主従が顔を見合わせる。
 ふたりのそんな仕草にもうっかり悶えそうになったのはここだけの話だ。
「何か祝い事でもあったのか、瑠意。……その相伴か?」
「いやいやいや。バレンタインでしょ、今日」
「バレンタイン? ……ああ、チョコレートを好きなだけ作れる日か」
「ああ、刀冴さんらしい認識……じゃなくて。バレンタインデーには、好きな人やお世話になった人にチョコレートを贈ったり、何かをプレゼントしたりするんですよ。去年もあったでしょ?」
「……そうだったか。十狼、お前覚えてるか?」
「はあ。そういえば、そのようなことがありましたな」
 ふたりとも、異世界人だけあって拍子抜けするくらいあっさりした反応だ。
 そういうのもふたりらしいけど、などと思いつつ、瑠意は、紙袋から少し大きめの箱を取り出し、ラッピングを解いた。
「とりあえず、こっちはチョコレートね。バレンタインって言ったら、ってことでトリュフを山のように作ったので、一緒に食べましょう。十狼さん、俺、ダージリン・ティーがいいです」
「そうか、承知致した」
 瑠意の子どもっぽい、多分に甘えの含まれたリクエストにかすかに笑い、十狼が立ち上がる。
 ここで、せっかく茶を淹れたのに、などとは言わないところが、瑠意に対する十狼の甘やかし方ではないか、と思い、それが事実だとも判るから、瑠意はまたしてもぐねぐねと身悶えたくなったが、さすがにそれをすると刀冴が生温かい目をするので必死で耐える。
「……では」
「あ、十狼さん、そういえば」
 厨へ向かおうとした十狼を、ふと思いついて呼び止める。
 踵を返しかけていた十狼が立ち止まり、瑠意を見下ろした。
 透き通った銀眼が、穏やかな光とともに瑠意を映す。
「いかがされた」
「いや、この前のチョコレートクルーズのお土産、食べてもらえたのかなーと思って」
「……ああ、それならば……刀冴様の、午後の茶の供に」
「えっ」
「そりゃ、ガトー・オ・ショコラってやつか。確かに、こないだの茶菓子に出たな。瑠意が作ったんだろ、あれ。美味かったわ、ありがとうな」
 晴れやかな笑顔の青狼将軍に、そんな風に言ってもらえるのは確かに嬉しい。まさに夢の中の出来事のようだと思う。
 が。
「あれ、十狼さんに食べてもらいたくて作ったんですけど……全部刀冴さんにあげちゃったんですか……?」
 刀冴に食べられたのが嫌だとか、残念だとか、そういう意味ではないのだが、チョコレートクルーズで行われたバレンタイン先取りイベントで、瑠意が懸命にガトー・オ・ショコラを作ったのは、刀冴が大好きすぎて激烈で容赦がなくてドSで人でなしな、そのくせ優しくて魅力的な、天人族最強の男に食べて欲しかったから、なのだ。
 瑠意が思わずふくれたのも、当然と言えば当然だった。
「おや、そうだったのか、それは済まぬことを致した。私は食わずとも死なぬのでな、あまり興味も執着もないのだ。よい香りがしたゆえ、刀冴様の茶請けにと思った次第だが」
 まったく反省がない……というよりも、十狼にとっての判断基準は『はじめに刀冴ありき』なので、何故瑠意が落胆しているのか本当に理解出来ないのだろう、
「そりゃ、十狼さんのそういう在り方は判ってますけどね。でも、なんていうか、もうちょっとこう……」
 ふくれたままで、ぶつぶつと文句を言うが、十狼は目を細めて瑠意を見ているだけで、堪えた様子もない。
「せっかくの力作を食っちまったのは悪かったが、そう拗ねるな、大人げねぇ」
 刀冴はというと、空に白い輪をひとつ、吐き出して、呆れている。
 瑠意はちょっと舌を出し、肩をすくめた。
「判ってます。十狼さんのことだから、多分刀冴さんに出してあげるだろうなって思ってました」
 自分が拗ねても、我がままを言っても、他愛ないそれらすべてを、この人たちは受け止めてくれるし、受け入れてくれる。
 そう理解しての、瑠意の言動だ。
 複雑な出自と過去から、色々なものを我慢し、諦め、自分を押し込めて生きていた瑠意が、こうして自分を出せるようになったのは、この、どこまでもマイペースで人の話を聴かない青狼将軍と、常に何もかもを見透かされているような気のする、愉快犯極まりない天人族随一の武人を始めとした人々のお陰なのだった。
 拗ねてみせても、本気ではないし、実は、そんなにがっかりもしていない。大切なのは、自分が彼のために一生懸命菓子を作ったという事実であって、菓子そのものではないのだ。
「刀冴さん、ひとつ言ってもいいですか」
「ん? ああ、構わねぇぜ。ケーキ食っちまった詫びに何かしろ、ってんなら、まぁ、受けるが」
「違いますよ、別に怒ってませんし!」
「じゃあ、なんだよ?」
 不思議そうに首を傾げる刀冴。
 瑠意は悪戯っぽく笑って、あのね、と続けた。
「刀冴さんは俺のライバルですからね」
「……は?」
「俺は、どう頑張っても刀冴さんにはなれませんし、追いつけませんけど、でも、十狼さんを好きっていう気持ちでは、絶対に負けませんから」
「いやまぁそこは別にいつでも追い抜いてくれて構わねぇっつーか、瑠意が俺になる必要はねぇっつーか、そもそも俺はライバルなんてものになる気はまったくねぇんだが」
「若、そのように断言されると十狼は少々傷つきます」
「お前が傷つくとか、聞いただけで鳥肌が立つっつーの」
 素っ気ない刀冴に一刀両断され、十狼が若干アンニュイな息を吐く。
 瑠意はその動作に思わず笑った。
 一番になれない自分を、少し切なく思う。
 どれだけ思っても、多分届かないだろう、あまりに強い想いに溜め息したくなることもある。
 自分だけを見て欲しい、自分だけのものになってほしいという、醜悪で滑稽で切実な願いがあることも、否定はしない。
 けれど、今、自分の目の前で呆れている刀冴と、刀冴の前でだけはコミカルさを増す十狼の姿を見ているだけでも幸せで、充分過ぎるほど満ち足りていて、自分が好きでいることを許してくれる、何やかや言いつつたくさんの気持ちと温かさを与えてくれる十狼にこれ以上を望んだら、きっと瑠意は、贅沢ものめと罰を当てられるだろう。
 だから、自分が彼のことが好きで好きで仕方がない、という気持ちが、十狼に伝わってさえいれば、瑠意は満足だし、充分なのだ。
「――……俺」
「ああ、いかがなされた、瑠意殿」
「十狼さんのことが、大好きですから」
「……そうか」
 率直な、真っ直ぐな言葉に、十狼の銀眼が細められる。
 そこに確かに満ちる、穏やかな友愛の色彩に、胸の奥が締め付けられるほど切ないような、嬉しくてふわふわと足元が覚束ないような、笑い出したいほど幸せなような、甘くて苦くて熱くて温かい気持ちが込み上げて、瑠意はまた、かすかに笑った。

 ――夢の終わりを、漠然と、しかし否応なく突きつけられている。
 街には不可解で不穏な事件があふれ、人々は終焉の空気を敏感に感じ取っている。
 夢の魔法に二度はないだろう。
 一度分かたれれば、もう、出会えぬものばかりだろう。
 だからこそ、いつも、いつでも、気持ちを言葉にして、素直に伝え続けたいと思うのだ。
 それが、言葉という手段を得た人間の権利であり義務であり、同時に、そうすることの出来る、そうすることを許された、そんな自分を大切にしてくれる人々への、何よりの手向けで、感謝だろうと思うから。
「あ、そうだ、こっちのプレゼントも開けてみてください、っていうかこっちがメインですし。――そうそう、ふたりのイメージにぴったりのを探して来たんですよ、俺ってすごくないですか? ええとね、刀冴さんの、翼をモチーフにしたペンダントに使われてるのがロンドンブルートパーズで、十狼さんの、ドラゴンをモチーフにした指輪にはまってるのがモルダバイトです。モルダバイトって宇宙から落ちてきたガラスなんですよ、すごいですよね。どっちも、地金はプラチナで、石はもちろん、一番いいやつを厳選してもらいました。よかったら、どこかで使ってください」
 ――古民家に、瑠意の、印象的なハスキー・ヴォイスが活き活きと響く。
 今夜も古民家は、きっと、賑やかで和やかな空気に包まれることだろう、いつものように。

クリエイターコメントオファー、どうもありがとうございました。
バレンタインとチョコレートと愛情にまつわるプラノベをお届けいたします。

ほのぼの三角関係、ということで、何とも可愛らしい関係だなぁと思いながら書かせていただきました。周囲はやきもきするかもしれませんが、当人たちは、案外幸せな関係なのかもしれませんね。

瑠意さんの可愛らしさを軸に、ゆったりと流れる楽しい一時を描けていれば幸いです。

穏やかに満ちる友愛を鑑みるにつけ、皆さんが、最後まで幸せであるようにと祈らずにはいられません。――無論、そんな心配は無用だろうとも思うのですが。


それでは、素敵なオファー、どうもありがとうございました。
またの機会がありましたら、よろしくお願い致します。
公開日時2009-03-20(金) 22:30
感想メールはこちらから